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スピルバーグが伸び切れなかった理由 / プリンスオブウェールズS回顧

      2015/07/08

 現地時間の17日、イギリス・アスコット競馬場で芝10ハロンのG1プリンスオブウェールズステークス(英G1)が行われた。

 ロイヤルアスコット開催2日目のメインレースである同レース。日本からは昨年秋の天皇賞馬スピルバーグが参戦。

 例年よりもメンバーが薄いということもあり大きな期待を掛けられたが、結果はジリジリ伸びるも6着。残念ながら良い結果を得られたとは言いがたい形に終わった。

 この記事ではプリンスオブウェールズSにおけるスピルバーグの走りに付いて焦点を置き、まずは振り返ってみたい。

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 まずはスピルバーグの状態についてだが、非常に少なかったパドックでのスピルバーグの映像から察するに、悪くは無い状態だったのではないかと思う。

 若干お腹の周りに少し余裕が有ったようには映ったが、太めというほどでもなく許容範囲程度のもの。身のこなしはいつものスピルバーグといった印象で、動きの軽さは同レース出走馬の中でも目立つ1頭だった。

 肌ツヤも悪くなく、特に不安らしい不安を感じさせない姿だったように見えたスピルバーグ。何せ初めての異国の地での競馬だけに調整に関しては手探り状態だったと思うが、状態に関してはベストでは無いにせよベターだったのではなかろうか。

 さてレースだが、まずまずのスタートを決めたスピルバーグは中団外目を進む。

 日本ではいつも後方からの競馬が定位置の同馬だが、序盤のペースが日本よりもだいぶ遅いこと。スタート地点からしばらく下り坂が続くことで勢いが付き易いこと。そしていつもよりも気合が乗っていたことが影響したのか、普段よりも前の位置での競馬となった。

 いつもは人間側が促さないと進んでいかないほどノンビリとしているスピルバーグだが、この日は終始気合を面に出し多少行きたがっているように見えた。折り合いを欠いてはいなかったものの、多少力んで走っていたような感じも。普段と違う周囲の環境に戸惑ってしまっていたのだろうか。

 あと日本ほどきちんと整地されていない芝に、道中何度か脚を取られノメっていたね。この日のアスコット競馬場の馬場状態は、2013年にノヴェリストがキングジョージを驚異的なレコードで制した時よりも乾燥し硬かったと発表されていたが、それにしては時計の掛かる不思議な馬場状態だった。

 こういう特殊な馬場状態だと、普段から良く整備され走り易い日本の芝に慣れている馬だと特に走り辛く感じられ、消耗し易いのかも知れない。スピルバーグが直線で伸びを欠いた一因として、こういった普段とは違う環境に戸惑い、消耗した可能性は大いにあるのではなかろうか。

 レースに話を戻すが、そういった戸惑い等を面に出しながらも後方で折り合い流れに乗ったスピルバーグ。馬群は最終コーナーを回り最後の直線に突入する。

 満を持して追い出されるスピルバーグだが、ジリジリと伸びるものの日本でいつも見られるような鋭い伸び脚は見られない。内から進路を確保しようとするムーア騎手騎乗のカノックチェイスCannock Chaseとのバトルは見応えがあったが、それは勝負とは離れた部分での出来事。

 なぜいつものような伸び脚が見られなかったのか?ということを考えると、先に述べたように最後の直線を迎えるまでに多少消耗していたのもあるだろう。しかし最大の要因はコース形態と、そこから発生する馬場適性の差ではなかろうか。

 アスコット競馬場は欧州の競馬場の中では非常にタフな部類に入る競馬場で、日本馬が普段良く好走するフランスの競馬場とは比較にならないほどのパワー、スタミナを要求される。

 スタートしてから暫くは下り坂が続くが、いったん一番低いところまで下りるとそこからはゴールまでひたすら上り坂が続く。その高低差は約20メートル。よく中山の直線の坂が急坂と表現されるが、あれだって高低差は約2mに過ぎない。アスコットはその10倍の高さまで駆け上がらなければならないのだ。

 パドックで見ていて感じたのだが、やはり欧州の馬は日本の馬と違って筋肉の付き方が違う。どの馬も豊富な筋肉量を誇り、幅のある分厚い馬体をしているのだ。それだけの筋肉量に裏付けされるパワーがないと、欧州の中でも特にタフなイギリス競馬では結果が出せないということなのだろう。

 世界で一番管理され走り易いと思われる日本の馬場で結果を出すには、とにかく高いスピードと一瞬の瞬発力、加速力が要求される。その場合、欧州馬の様な豊富な筋肉は逆に只の重しにしかならない。勿論四肢を速く振り回す為の必要最低限の筋肉量は必要だが。

 特にディープインパクト産駒は日本で結果を出すことに特化した産駒が多いため、数あるサンデー系種牡馬の中でも特に欧州のタフな馬場とは相性が悪いように思う。ディープ産駒の中では馬格が大きい部類に入るスピルバーグも、本質的には日本の軽い馬場でこその馬なのは間違いないだろう。

 そう考えるといつもの末脚が発揮できなかったのも何となく納得できる気がする。最後の直線もゴールまでずっと上り坂が続くのだが、そういう馬場で他馬よりも鋭い末脚を繰り出すには、坂に負けないパワーが必要だからだ。

 だがスピルバーグの直線での脚捌きを見ていると、いつものような高回転ピッチ走法は繰り出せていなかった。重い芝プラス坂にパワー負けしてしまったのだろう。

 ゴール前で少し伸びてきた感じに見えたように、最後までジリジリとは伸びていたスピルバーグ。この姿を見ると脚自体は最後まで上がっていなかったようだ。いつもの伸び脚を見せることは叶わなかったが現状の力は出し切った、そういったレースだったのではなかろうか。個人的には良く走ったと思っている。

 おそらくスピルバーグにとって今回のイギリス遠征で候補に挙がったレースにおいて、一番合わない・適性外のレースがプリンスオブウェールズS、要はアスコット競馬場だっただろう。

 もう一つの候補であったエクリプスステークス(英G1)が行われるサンダウン競馬場も、最後の直線は約800mと長いもののゴールまでずっと上り坂になっており、スピルバーグおよび日本馬には合わない可能性が高い。

 唯一インターナショナルステークス(英G1)が行われるヨーク競馬場はほぼ平坦な競馬場で、直線の長さも約1000mと抜群の長さを誇る。同レースでは過去にゼンノロブロイが遠征し、ドバイWCを制したエレクトロキューショニストと接戦を演じて2着いう実績もある。

 このレースならスピルバーグも充分勝機は有ると思うのだが・・・。どうやらレース後の関係者のコメントを総合すると、現地での続戦の予定は無くこれで帰国するらしい。秋の天皇賞連覇を狙うとすれば、これ以上遠征を長引かせずに帰国するのが最良なのは分かるが・・・何とも残念だ。

 例年に比べメンバーが軽かったことで期待した今回のスピルバーグの挑戦だが、やはり日本馬にとってアスコット競馬場は高い壁であったようだ。この競馬場で勝つことは凱旋門賞を勝つことよりも難しいのではないか?そんな気すらする。

 そう考えるとハリケーンランやエレクトロキューショニストといった当時欧州を代表する超一流馬と、プリンスオブウェールズS以上にタフな競馬となるキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(英G1)で死闘を演じたハーツクライは、本当に偉大な名馬だったんだなと改めて実感した。

 世界一華やかといわれる競馬開催であるロイヤルアスコット。ここで勝利することはホースマンにとって最高の夢の一つだが、夢を叶える為のハードルは相当高い。ポッと行ってポッと勝てる代物ではないだけに、綿密な遠征計画を練り本気で取り組む陣営がいつか出てきてほしいなと思った。

 - レース回顧, 海外競馬

        
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