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【天皇賞・春回顧】ゴールドシップの底力を引き出した横山典弘

      2015/05/11

 正直パドックの気配はイマイチに見えた。

 前走後に脚元に不安を発症したこともあり、2週間ほど前まで放牧に出ていたゴールドシップ

 そこから急ピッチに乗り込んできたものの、やはり多少時間が足りなかったのだろう。馬体重こそプラス2キロだったものの、前走時に比べると少し緩い造りに感じた。

 また気合乗りも遅く、担当の今浪厩務員に何度も促されながら周回を重ねていた同馬。同じような仕草を見せていた2年前のジャパンCは15着に大敗しており、余計に不安を覚えたというのが正直なところだった。

 ゴールドシップ自身の気持ちが走る方に向いていなかったのは、ゲート入りに手こずったことからも窺い知れる。頑としてゲート入りを拒否するゴールドシップ。この姿を見たときは正直終わったと思ったものだが・・・いやはや、横山典弘という騎手の偉大さをまざまざと見せつけられた気がする。

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 多くの競馬関係者、マスコミ、ファンが異口同音に言っている通り、ゴールドシップの勝因の大部分を横山典弘騎手の手綱捌きが締めていることに筆者も異論はない。

 ただ間違えたらいけないのは、横山騎手は別にマジックを使った訳ではない。確かに大胆な騎乗ぶりだったことには異論はないが、別に奇策に出たわけではなく、後から考えてみれば一々理に適った、ゴールドシップが天皇賞を勝つ為に必要な騎乗をしているに過ぎない。

 ゴールドシップが春の天皇賞を勝つ。このミッションを達成する為には、欠かせない条件が2つあった。1つは上がりが極端に速い競馬にしないこと。もう1つは最終コーナーを回って直線に向く時、同馬がラストスパートを行える余力を持って先頭集団に取り付いていることだ。

 横山騎手も勝つ為にはこの条件を満たす必要があることは重々承知していたはず。だからこそレース後「逃げれたら逃げるつもりだった」という発言も飛び出たのだと思う。

 ただ実際には逃げられなかった。それどころかダッシュがまるで付かず、離れた最後方に置かれてしまう。

 でもそれも想定の範囲内だったのだろう。慌てず騒がすまずはレースの流れにゴールドシップを乗せると、1周目のスタンド前に差し掛かる辺りから勝つための策を徐々に実行に移していく。

 1周目のスタンド前、横山騎手はゴールドシップをあえて馬群の外に導いた。その時スタンド前を通過してく17頭に対して、ファンからは大歓声が湧き上がる。そしてその大歓声に反応したのか、それまで緩慢な走りを見せていたゴールドシップは急に気合を面に出し、シャキッとしたかと思うと自発的にギアを一つ上げる。

 走る方に気持ちが向かずに気の抜けた走りをしていたゴールドシップ。そのやる気を引き出した一連の動作は、まさに馬の気持ち熟知したベテランならでは。当代随一の名手、横山典弘騎手だからこそ駆使できた名人だと思う。

 さてレースが2週目の向こう正面に差し掛かると、ここで勝つための第二の策が発動する。

 馬群が2コーナーを回りきって向こう正面に入る。普通この場面ではこれから待ち構える勝負どころに向けて最後の力を蓄える為、どうしても全体のペースは落ち気味になる。ところがそのペースが落ちた瞬間に仕掛け、ポジションを一気に押し上げる挙に出た横山騎手。

 レースの流れ、セオリーに反することを躊躇しない度胸、そして他の騎手の心理を読みきっていないとこういう仕掛けは出来ない。そして当然の事ながらペースが落ちたところで仕掛ければ、馬の負担は見かけほど大きくならない。

 レースの残り1400mから1000mの約400m区間で、後方から先団まで一気にポジションを押し上げたゴールドシップ。この区間の公式ラップは12秒3-12秒5となっているが、2ハロンにかけて約5~6馬身差を詰めているのだから、大体1ハロンに付き公式ラップより0秒6ほど速いラップを刻んだ計算になる。

 単純にこの数字を公式ラップに当てはめると、11秒7-11秒9程度の脚をこの400m区間で使ったことになろうか。

 ムチを何発か飛ばすなど派手なアクションで追い上げたせいか、かなり速い脚を使ったように錯覚しがちだが、数字にするとそこまで無茶な脚は使っていないように思える。というかこの程度の脚ならG1・5勝を誇る名馬ゴールドシップなら、さほど苦もなく繰り出せるのでは?

 まさに馬に負担の少ないベストのタイミングで横山騎手が仕掛けたことが、数字でも証明されたと言えるだろう。

 さて残り1000mの地点で逃げ馬を射程圏に捕らえる位置まで押し上げると、そこからは一転して無駄な動きは控え脚を溜めることに専念する横山騎手。

 ここでしっかりと息を入れ、脚を溜めることに専念したからこそ、最後の直線で一度は抜け出したカレンミロティックをゴール前で捕らえ、また追い込んできたフェイムゲームをクビ差押さえる脚が使えたのだろう。

 もしあそこで色気を出し一気に先頭に踊り出るような競馬をしていれば、結果として息を入れるタイミングを逸し、更には逃げ馬の余計な抵抗を誘発して泥沼のような消耗戦に引きずり込まれた可能性は高い。まさに天才的な状況判断能力と言えるのではないだろうか。

 このように一見破天荒な競馬を展開したように見えるものの、その裏で緻密な計算による非常に理に適った競馬を展開していた横山騎手。この素晴らしい手綱捌き無くして、今回ゴールドシップの戴冠は成し得なかっただろう。

 本当に素晴らしいレース、面白いレースを見せてもらったと、ゴールドシップと横山典弘騎手には心から感謝したいと思う。

 - レース回顧

        
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